静かな裏切り
あっちゃんは、全てのことを受け入れていたような気がする。
どうしようにも回復しない肝臓のことも・・・・
溜まってきた腹水のこと
抜けきれない尿の量
異様に腫れていく体を、
もしかしたら、
自分の死ですら・・・・
1月19日
いつも通りあっちゃんと過ごして、私の心の中では余裕すら出ていた。
このまま入院が続くようだったら、私もそろそろ仕事に復帰しなくちゃ・・・・とまで思い始めていた。
理由はないが、あっちゃんはまだ死なないって思っていた。
明日も、明後日も、ずっとベッドの上だけど、こうして体を撫でながら、手を握りながら横に居て話が出来ると思っていた。
ただ、10年も20年もできる・・・なんて思っていない。一ヶ月、いや二ヶ月・・・運が良かったら、一年ぐらい。
長い長い「年単位」の時間ではないけれど、まだあっちゃんと一緒にいられると思っていた。
そう信じたかったのかもしれない。
明日から、仕事に行こうと心に決めて病院を後にした。
まさか、まさか、あっちゃんの命の炎が、消えかかっているなんて知らないから。
私の大好きな人が、死ぬはずなんてありえないじゃない。
死ぬなんて・・・・最大の裏切り行為でしよ!
でも、この日、あっちゃんは、一人で旅立ちの準備をしていた。
確かに、ひとつ思い当たることがあった。肝性脳症が ひどくなる前に起こる症状である「眠気」・・・・
あっちゃん、今日は、やけに目をつむるなあー。眠たがるなって思った。
だけど、まさか、まさか・・・・
あっちゃんが何も、
本当に、なーにも言わずに
私と「さよなら」するなんてことは、あるはずがない。
まだまだ話さなければならないことが山ほどあるのに。
私を置いて・・・・・
私は、大好きなあっちゃんの心の叫びを聞けずに・・・・
眠りについた。