誰が何と言おうと哀しいものは…哀しい
「あっちゃん…寝るね。
おやすみ。」
リビングの電気を消し、辺りをそっと見回し…静かにドアを閉める。
廊下のスイッチに手が届くまでの一瞬…ほんの一瞬・・・
家中…当たり前だけど、真っ暗な暗闇に包まれる。
毎日…毎日…真っ暗になる。
毎日のことなのに…
いつも…この一瞬が嫌いで…哀しくてたまらない。
一人だ…ということ・・・
あっちゃんがいない…ということを、この「暗闇」が、情け容赦なく教えてくれる。
分かっていても、
哀しいものは…
誰が何と言おうと哀しい。
寝室に入って、明かりを付け、見もしないテレビのスイッチを押す。
寝室のドアはいつも開けっ放し…
あっちゃんが生きていた時からずっとそうしてきた。
ドアが開けっ放し…なのには理由があった。あっちゃんが「居る」ことを「生きている」ことを…確認する手段だった。
コンビニの仕事を終え、夜中に帰って来るあっちゃんが眠りに就く時刻はまちまち…。
「帰ってきた」こと、「眠っている」ことを…確認するために…。
睡眠時無呼吸症候群だったから。
体調があまり良くないことも…
眠るために飲んでいたお酒のことも…何となく…分かっていたから。
ドアを開けて…
「息してる。」って…
「生きてる。」って…
確かめたかった…。
夜中に目覚めた時、寝息やいびきが、聞こえて来ると…
「帰って来てるんや。」
「寝てるな。」って…安心できた。
寝室に明かりがついていると・・ホッとした。
「ここに居る…よ」って…証。
「生きている…よ」って…証。
今も…開けっ放し…。
もう…聞こえてくるものなんてないのに…。明かりが灯ることなんて永遠にないのに…
今日も…今からリビングの明かりを消す。
また、さみしい暗闇が来る…。
今日もドアを開けっ放し…
あっちゃんの声…
聞こえてこないかなぁ。
今は・・・
「傍にいるよ」の証が欲しい。
