哀し…寂しき鳴き声・・
いつの間にか…秋になっていたのですね。
女子寮では、来春高校を卒業する子ども達に自活支援活動を行なっている。つまり、自分の事は自分でする(自立した)生活ができるようになるために、「自活棟」と言う場所に行き、そこで半年間生活をする。その間に調理以外の殆どのことを一人でこなし、基本的生活習慣のリズムを確立するのである。
その棟へ21時の消灯時間と夜中0時に見回り行かなければならない。
宿直に当たった人の任務なのだが、私は、この仕事を始めてこの「夜の見回り」が一番嫌いだ。
真っ暗な道を通って自活棟へ行き、一、二階の事務所の戸締りの確認をし、その後、もう一度一階に下りて、長い廊下を歩き、それぞれの部屋を見回る。
夜中の0時は、小さな懐中電灯1つ手に…持って。ドキドキしながら静かにドアを開ける。寝ているのを確認してドアを閉める。
そして…女子寮に戻る。
リーン…リーン
鈴虫の鳴き声。
風も変わったな。
心地よい爽やかな風が吹く。
真っ暗な空の下…各棟の玄関先の灯りだけが暗闇に浮かぶ。
懐中電灯を右手に、空に円を描いてみる。大きく…大きく描いてみる。
「私はここよ…!。見てくれているのかなぁ。」と、独り言。
あっちゃんに!
届け!と…暗い空に。
夏の暑い時に家を飛び出してから、季節が一つ変わろうとしていた。
しかし、一向に「変わらない」私の心・・・
リーン…リーン・・
鈴虫の声が優しく響いた。
季節が変わりゆくことに・・
周りの景色が変わることに・・
無関心だった。
ただ日々の生活に、仕事だけに気持ちを向けて暮していた。そうしないと…また、哀しんでしまうから。
リーン…リーン…
鈴虫の声に
また、人恋しい秋が訪れたことを知った。
真っ暗な空の下…
3度目の秋…
私こそ…今・・・
「心が自立」できるように、自活訓練を受けているのかもしれないと思った。
鈴虫の鳴き声は、物哀しく聞こえた。