太陽の消えた小さな世界
アパートの小さな玄関ドアを、小さな声で「行って来ます」と、閉める時…、
振り向くと…私の住む異様なまでに小さな世界が見える。
外の世界を遮断したかのような遮光カーテンは、明るく照らしている陽の光を閉ざし、風も…音も陽の暖かさも…全て奪い去ってしまったように、この部屋の…一角だけを薄暗く寂しくしている。
そんな…寒々とした部屋に向かって毎日小さな声で「あっちゃん!行って来ます」と鍵をかける。
駐車場に停めてある車までの距離50m。
その50mの間に、両手を広げ思い切り太陽を浴びる。水を得た魚のように、太陽に向かって息を吸い込む。やっと、陽の当たる場所に出たようだ。
目を細めながら見る太陽は、46億年前に誕生したというもの、少しずつではあるが形を変えながらも、地球上のあらゆるものに平等に、そして変わらぬ光を与え照らしてくれる。
その太陽のような存在が、…夫であった。そして…夫にとっては私であったはず・・
その…「生」の根源である太陽がなくなった。
私を照らしてくれるもの…
私を導いてくれるものがなくなった。
私に眩しい太陽は似合わない。陽の閉ざされた小さな薄暗い居場所の方が居心地良く感じることもある。
だけど…生きると決めた。
だから、
今日も…明日も、明後日も…
この50mに、哀しみと寂しさを置いて車に乗り込もう!
いざ! 出陣!
