最期に見たいもの
人は死ぬ時…
何を思うのだろうか。
今!
まさに最期を迎えようと…浅く長い呼吸を繰り返し…
これで終わりだ…と、
この世に別れを告げている時…
見えるものは、やっぱり愛する人の顔なのだろうか…。
(ここからはブログ「黄色い涙」の一部掲載)
その日、3週間ぶりに職場復帰し、3時間が経過した頃、娘から電話があった。
「気をつけて今から病院へ来て」と…。
「絶望」にも、値するこの気持ちに押し潰されそうだった。
なんとなく分かっていた。
主人が最期の別れを告げようとしていることが。
病室に入った。
普段より、上半身を傾け(起き上がっている状態)その両脇には、娘と義母がいて、しきりに、声を掛け、背中や腕を撫でている。
一目見て・・・・分かった。
「私を待ってくれていた。」って…
「あっちゃん」と言って抱きついた。
「あー」
「あー・・・」
と、一生懸命声を出している。
肩で息をしている。
「あっちゃん。来たよ。しんどいね。
だけど、私のために、もう少し頑張っ てね。」
あっちゃんの血圧、呼吸数、脈拍数、心拍数、酸素濃度は、全部コンピューターに数字として表されている。その見方は、ここ1週間でマスターした。
まだ、大丈夫。あっちゃん頑張ってるから。しかし、心拍数が140も150にもなる。
「苦しいのかねー」と、心配になる。
だんだんあっちゃん定番の声「あー」が、弱々しくなってきた。
呼吸の仕方も弱々しく・・・
心拍数も少なくなっている。100を切る。だんだん少なくなっていく。
その時、
「あっちゃん、!
目を、目を開けて!」 と叫んだ。
あっちゃんは、大きな大きな目を、カッと見開いて、私を見た。
「あっちゃん、ありがとう。ありがとう。大好きやった。ありがとう。」と、何度も何度も言った。
娘も、義父母も、思い思いのことを消え逝こうとしているあっちゃんの心に届けとばかりに口にした。
泣きながら・・・
カッと見開いた目は・・・
手で閉じようとしてもなかなか閉じなかった。
まだまだ家族の顔を、見ていたかったのだろう。
まだまだ、愛している人達との別れを望んでいなかったんだろう。
その時だった…
あっちゃんの大きな目から涙が出た。
それは…
それは見たことのない黄色い 涙 だった。
残酷だ。
優しくて、面白くて・・・・
人が大好きで、お酒が好きで、
働き者で、文句なんか一つも言 わず一生懸命頑張ったあっちゃんが今、私たちに、「さよなら」を、しかも永遠の別れを告げようとしていた。
心拍数がゼロに、なった。
血圧がゼロになった。
あっちゃんは、死んでしまった。
入院してから、ほぼずっとつけていた友達一号(尿の量を測る袋)は、空だったことに気づいた。今日は、全く尿が出ていなかった。
あの時…カッと見開いた瞳で、間違いなく私をみつめていた。
