哀しみの追いかけっこ
ずっと共働きだった…
だから通勤用として2台の車が必要だった。
いつも1台は新車を購入し、もう1台は中古車にした。どっちの車を使うか話し合いにはなるものの…決まって私が「新車」の主人となった。
そんなある日…2人で買い物にあっちゃんの車で出掛けた。助手席に座った私は、開けなくてもいいのに…あっちゃんの車のダッシュボードを開け、その中から手紙を見つけてしまったのだ。
それは、職場の人からの手紙だった。
「頂いたシクラメンの花を見ながら書いています。貴方と過ごした年の暮れ…のことが忘れられません・・
あっちゃん(私と同じ呼び方をしていた)の事が大好きです。」
・・みたいな事…が書かれてあった。
当然…ことの真相を究明しなくてはならない。
私が今でもはっきり覚えているのは、後にも先にも、「もしかして…女の人・・?浮気?」って感じたのが、この1回だけだったからかもしれない。
「これ?何?」
「あっちゃん…って書いとるよ。」
「年の瀬…っていつの事?」
ドキドキしながら質問した。
あっちゃんのハンドルを持つ手に力が入っていったのが分かったような気がした。
「車・・・止めて!」何度か言った。
私は右手でハンドルを握り…
「車・・止めて…」強く吐いた。
あっちゃんは、仕方なく車を止めた。
私は、助手席のドアをドーンと開け、そのまま…家とは反対方向に向かって走り出した。
泣き泣き走った。
人目も気にせず…
後ろから足音が聞こえで来た。
私は振り返らなかった。
でも…あっちゃんが必死に走っているのは分かった。
私を捕まえると・・
私をギュッと抱きしめた。
あっちゃんの胸でしばらく泣いた。
「馬鹿じゃのぅ。俺に宛てた手紙じゃない。あれは、あつし(施設の医師)に渡した手紙なんぞ。あつしから相談されてそのまま俺が持っていたんや。」
『あつし?・・確かに…あっちゃん?』
車の中でそう…説明された。
本当か嘘か…今となっては分からない。でもその時は、そう信じた。
しかし…
あっちゃんが病気のことも、コンビニの悩みも、借金のことも隠して…自分だけの胸に死ぬまで秘めて逝ってしまったことを思うと…
あっちゃんは上手に私を騙したのかもしれない。
それは、私の涙を見たくなくて…私を苦しめたくなくて…最期の最後まで私を必死で騙したのだろう…。
多分…私は、あっちゃんに沢山嘘をつかれているのだと思う。
私だって…
実は沢山…嘘をついているもの…