追憶②あの世からの電話
毎日毎日…夜9時になると電話が鳴った。
携帯電話なんてなかったから・・
9時になると…
家の固定電話がそれはそれは大きな音で鳴る。
リーンリーン!リーンリーン!
電話は2台あるものの…
一本の回線だから、両方の電話が鳴る。
電話の一台は私の部屋に置いた。
母は、毎日のことだから…
毎日ほとんど同じ時刻だから…
その電話が鳴っても受話機を取ることはしなかった。
毎日毎日…1時間以上…話した。
どんな話をしていたのだろう…。
仕事の話…?
それぞれの自慢話…?
話の内容は覚えていない。多分どうでもいいことを話していたんだと思う。
会いたい…って思いながら…
300キロ離れた場所にいる彼と私…
細い電話線の中に入ることができたら…なんて・・思ったこともきっとあったと思う。
彼はいつも、お酒を飲みながら話していた。
私は大概お風呂上がりだった。
話の内容は思い出さないが、声を抑えて笑っている私が…彼の声がする受話器を大切そうに抱えている私が…はっきりと思い出される。
幸せだった!
どんなに離れていても…
声が聞こえて…
声のトーンから気持ちも伝わって…
笑い声が…
咳払いが…
はっきり聞こえた。
あれから5年…
夢の中の彼は何か喋っただろうか?声を聞いていないような気がする。
そこら中いろいろな電波が行き交っている今!
あの世からの声をキャッチできる電話はできないものだろうか…なんて考えてしまう。
あぁ〜あ!声が聞きたい!