絶望の底から青い空を見て・・・

2014年12月31日
私の目を見て医師は、言った。
「24時間の命です。」
2015年1月20日最愛の夫は、死んでしまった。
死・借金・裏切り・崩壊・人間不信…
今、独り…目に見えない何かと闘いながら生きていく…。
逢いに逝けるその日まで…。

長い片思い

柔らかい手の感触で・・・目覚めた。


娘が、向日葵のパズルが欲しいと言うので、二人で出かけた。私は、両手いっぱいに荷物を持っていた。

店内に入ろうと、ドアを開けたその時、持っていた荷物が、そこら中に落ちてしまった。


「あっ」


助けてもらおうと、名前を叫んだ。

大きな声で・・・

「あっちゃん!」


やっぱり、その名前を

呼んだ!


店の前には沢山のベンチが並び、沢山の人が座っていた。でも、私のその声を聞いて、いち早く駆けつけてくれたのが、

やっぱりあっちゃんだった。


荷物を私に、そっと渡してくれた。

元気そうだった。

沢山の点滴でブヨブヨだった体も元どおりに・・・・

黄疸で黄色かった目も、とても綺麗で・・・・


最期に餃子を食べ残してしまったことが心残りだとか、切手代に、12万円かかってしまった事が誤算だったとか、よくわからない会話をした。(きっと何か意味があるのだろうと思う。)


「私が困ったとき、また、助けてくれる?」って聞いてみた。


あっちゃんは、


何も言わず手を撫でてくれた。

その手の温もりで、目が覚めた。



会いに来てくれた。

やっと!会いに来てくれたんだ。

彼がいなくなって、今日で110日。


やっと、話ができた。

ありがとう。

今日は、母の日だった。


また、会いたい。

霞にまぎれた本心

春の海に浮かぶ島々が薄く霞んで見える。

今日は雨・・・細い雨が降っている。


そして、今日は私達の結婚記念日。


家の中に居るのもつまらないので、また、またやって来てしまった。

行き交うフェリーや小さな釣り船。

フェリーの後ろを波しぶきが、白く太く一本の線を描く。薄ぼやけた海がみるみるうちに二つの世界に分けられていく。

こっちからあっちは、幸せの世界

こっちからそっちは、悲しみの世界だと教えてくれる。

確かに、 随分昔の今日・・・私は本当に幸せだった。目を閉じると、はっきりと聞こえてくる。姉の、涙で・・・声にならない声が・・・・

「おめでとう」と・・言っていた。

目を閉じると見えてくる。大切な大切な人達の笑顔が・・・たくさん。

幸せだった。

みんなの笑顔があったから幸せ。 いっぱい泣いた。感謝の涙・・・

新しい人生の始まりの涙だった。

大好きな人達に囲まれていたから・・

本当に幸せだった。


お母さんがいた・・・

お父さんがいた・・・

あっちゃんが横にいた・・


でも・・・今は、

二つに分かれた世界を、描かれた一本の白線の上を、私は行ったり来たりしている。

幸せの世界と悲しみの世界を・・・

今年は、独りで結婚記念日を過ごした。もともとそんなに重きを置いていなかった。あっちゃんと二人の時も料理を一品増やすとか、外食するぐらいでその日を過ごしたものだ。でも、今日、


「結婚記念日」を考えさせられた。

「共に生きていく」大切な・・・互いに感謝し合う日だったんだ。


あっちゃんは、毎年ではなかったが、プレゼントを用意してくれていた。指輪にネックレス・・・10年目の記念日には、スィートテンダイアモンドを貰った。


私は、用意したことは多分一度もなかったと思う。

駄目だなあー。わたし!

「ありがとう。そして、ごめんね。」


もう、結婚記念日は出来ない。

今日の「結婚記念日」が、

最期の記念日。

来年から、この日は、あっちゃんに心を込めて「ありがとう」を言う日にしよう。

「サンキュー記念日」誕生!だ。


いつのまにか、雨が強くなって来た。霞(霧)が一層深くなってきたように感じる。「かすみ」いい響きだ。煙のように立ち上り幻想的な「霞」の中に私はいる。「霞」に包み込まれている。回りが見えそうで見えない。まるで、雲の上・・・・あっちゃんに逢いに来たみたい。辺りを見回してももちろん居ない。なんて居心地いいんだろう。平安時代以降、春立つのを「霞」秋に立つのを「霧」と呼び分けているそうだ。私は、季節に関係なく「霞」と呼びたい。

フロントガラスまで真っ白になってきた。雨の音も心地よい。もうしばらく此処にこうしていよう。


また、一隻フェリーが通り過ぎる。

白い波が分けて出来上がる二つの世界。でも、水は、いずれ混じり合い、必ず一つの流れを作り出す。

穏やかにゆっくりとさざ波になって、一つになる。さざ波のように優しく少しだけ輝いて生きていきたい。二つの世界を上手に渡りながら無理をせず生きていく。 そんな、私を見ていてほしい。

私は、

ずっとあっちゃんと生きていく。

ただ、

ただ、私の心も深い霞の中にある。


ほら、また、霞が深くなってきた。薄ぼやけた島が益々見えなくなってきた。



判決が、出たならば・・・。

この街を、

この場所から、

二人で築き上げたものを残て・・


私は、もしかすると、最大の裏切り行為をしてしまうかもしれない。


フェリーが通る。

波しぶきをあげて。


弁護士の電話からそろそろ1週間が過ぎる。

しばらくは、闘ってみるけれど・・


愛しているけれど、

裏切ってしまうかもしれない。

私はさくら

やっぱり来た。

この場所に。

砂浜に面して植えてある桜の木・・・

地面に落ちるのをためらっているのか少しだけ残っている桜の花が、吹いてくる潮風に抵抗してしがみついている。

枝は、そんな花びらの細やかな願いも知らず、ただ悠然と風の流れに逆らわず自分の体をしならせている。

力尽きた花びらは、砂浜から巻き上がる砂に混じって舞い上がる。


そして、地面に落ちる。


ここで過ごした28年の月日。

娘は、吹いてきた希望ある春風に乗って、自分の居場所 へと飛んでいった。

私は、枝は折れてしまっているのに、まだ必死で掴み離れようとしていない諦めの悪い「さくら」だ。

吹いてくる風にも抵抗し、舞い上がる砂は手で覆い身を隠す。

ここで今まで通り生きていける訳がないのに。


風の流れに逆らわず、飛んでみようかなあー。

ぎゅっと掴んでいないで、そっと手放そうなかあー。

そうしたら、

心が軽くなれるのだろうか。

そうしたら、笑えるのだろうか。


あっちゃんは寂しくないだろうか。

私が手を放したら・・・・



今、また、私の目の前を花びらが飛んでいった。


歌っているように見えた。