聞こえない・・こえ
あたりまえだけど・・・
真っ暗な家に帰って来た。
玄関横のポストに1通の封筒が入っていた。それを握りしめ、鍵を開ける。
ムッとした空気、息苦しささえ感じる。
人の気配は? もちろん感じない。
誰もいないと分かっていても、言ってみる。
「ただいま」・・・
「おかえり」・・・って声が聞こえたらどんなに嬉しいだろう。
今まで何気なく使ってきた言葉だけれど、とても温かい言葉だったんだ・・・と、今更ながら思う。
娘が家を離れてからは、使う頻度も少なくなっていた。
「おかえり」・・・って。
あっちゃんは、コンビニを始めてから、だんだん言わなくなっていったような気がする。
「ただいま」・・・って。
夜中に帰って来たり、まだ日も昇らな い明け方に帰ったり、娘は学校、私は仕事・・・誰もいない家に帰って来たりで、その言葉も徐々に使わなくなってきたのだろう。
もしかしたら・・・、
もしかしたら、
真っ暗な家に入って、小さな声で、
「ただいま」って言っていたのかもしれない。
今の私の様に・・・
「おかえり」と答えてくれる言葉を期待せずに、
「ただいま」って。
どんな声で言っていたのかなあー?
「ただいま」・・・って。
もう少し・・・
聞きたかったなぁ〜
「ただいま」の声。
もう少し言いたかったなぁ〜
「おかえり」・・・って。
私には、もう
「ただいま」もなければ「おかえり」もないのかなあー。
そんな事を思いながら、握りしめた封筒を見た。
裁判所からの郵便だった。
始まった・・・んだ。
