女房と便
「お前の顔を見ると、なぁんか・・出そうな気がするんよのぅ。」
昨年末から年を明けて23日間の短い入院生活。
入院中、彼に求められたものは、一日2000mlを超える尿と排便だった。
入院してからは、絶食の毎日が続いていた。飲む水の量も500ml以下と決められ・・それしか口にしていないのに、便なんか出るわけがない・・と、私は思っていた。
しかも、肝性脳症のため昏睡状態から目覚めた時には、5、6本もの点滴に繋がれ、口にするのは、口の渇きを潤すためだけの「霧吹き状の水」だけ。それだけ・・
なのに・・・・大便なんて。
口を大きく開けて、「俺のご飯」と、言って何度も求めた。
たまに、味のある物が飲みたくなるらしく、主治医に言って柚子やレモン味のお茶も、ひと口ふた口・・口にして喜んだ。
尿は出る。
毎日・・・目標に達していた。
でも、便が出ない。
しかし、ついに念願の日が来た。
朝、病室に行くと、私が来るのを心待ちにしていた。私を見るなり、
「大便が出とる。」
私にしか頼めないそうだ。
横に義母もいるし、看護師だっているのに、私が来るまで待っていた。
私を待っていた・・・
「良かったね!良かったね!」綺麗にしてあげるね。って・・・
でも点滴で腫れ上がった身体や足は重たくて、点滴の針は、いたるところにあるし・・・
「あっちゃんごめんね。一人じゃ無理だから看護師さんにも手伝ってもらうね。」
しぶしぶ・・
「おぅ」
それからもう2回ぐらいあったかな。
私にだけ言える言葉。
「お前が綺麗にしてくれ。」って。
私にだけ・・・
ありがとう!
「お前の顔を見ると、大便が出そうな気がする。」
これは、最大にして最愛の褒め言葉だったんだ!
あっちゃんがいなくなって、暫くして、もしかすると・・・手紙とか、日記とか、私宛てに書き遺した物があるのではないかと探した事があった。
しかし、未だに何一つ出てこない。
でも・・・ここにある。(心)
聞こえてきそうな気がする。
優しい声で・・・
「お前の顔を見ると、大便が出そうな気がするんよのぅ・・・。」

