ひとり追悼会
風の音が聞きたいと思い…あの海へやって来た。
朝から降っていた雨も…午前中で止み、陽射しが眩しかった。梅雨入りしたせいか木陰を吹く風は、水分を含んでいる。しかし、それが新緑の季節には良いのだろう。
緑を増した木々からは、新鮮な蒼い匂いがしてくるようだった。爽やかにさえ感じた。
木洩れ陽を浴びることができるいつもの場所へ車を停めて、揺れる葉桜の枝とその間から見える小さな…小さな海を眺めていた。ぼんやり眺めていた。
堤防の端の方に釣り人が、たった…2人いるだけだった。
「今日は一人追悼会をしよう。」
ふと…思った。
携帯のアルバムの中から…あっちゃんの写真と映像をゆっくり観る。ただそれだけ・・・。その中に、
肝性脳症の症状のため目を閉じ体を動かさないあっちゃんが。だけど、声は聞こえるらしく、話す事に頷いてみせたり、ゆっくりだけど一言二言…喋ったりしている映像がある。
はっきり喋れないから…ゆっくりと…でも確かにあっちゃんの声で…
「ゴンが・・・
すぅ きぃ やぁー」って…。
風に揺れる木の葉を見ながら…何度も聞いた。
風の音?
いいえ…あっちゃんの声。
(正直に言うと、肝性脳症でほとんど眠った状態のあっちゃんの耳元で
「ゴン…好きだ」って…言って!と私が半ば強制的に言わせたものだ)
その画面を繰り返し観た。
何度も何度も…聴いた。
繰り返し…聴いた。
姿は見えなくても、心の中でずっと生き続ける…なんて…
・・そんなの…嘘っぱち!
心の中で…生きていても意味がない。
心の中になんか…生きていない。
心の中は…あっちゃんも私も死んでいる。
いっその事…忘れてしまいたい。
