すき焼き…
それは・・・
突然にやってくる。
急に・・・哀しくなる。
息ができない程…哀しくなる。
走って、あっちゃんの遺影の前に座り、硬い遺影を抱きしめ・・泣く。
後から…後から込み上げてくる涙…
気づくと私は、
「あっちゃん
お腹空いたやろ……
何か食べたいやろ…。」と、言いながら、泣いていた。
23日間の闘病中、食べ物を口にしたのは、
1月8日の昼・夜だった。
箸を上に挙げ、おどけた顔でポーズをとっているあっちゃんが…今も…今も生きているかのように、携帯の中にいる。
この時が、緊急入院して、まさに、11日ぶりの食事だったから…。本当に嬉しそうに笑っている。
1月9日の朝…何故か…
だんだん食べ物を受け付けなくなっていった。
その日の夕食は、全く…手をつけることはなかった。
「食べ過ぎたかのぅ。」その言葉を残して、深い…深い眠りに入っていった。
お腹が空いているだろうに…
ただ…息はしていた。
尿も出ていた。
それだけが、「生きている」証だった。
意識が戻り始めたのは、それから一週間後の1月15日。
16日には、会話もできるようになった。しかし…食べ物は口にできない。水分管理もあった。
あっちゃんの体は、6本の点滴にも繋がれていた。
あっちゃんが口にできるものは、少量の水だけ。ゴクゴク飲めない。口が渇くので、水を霧吹き状で出てくる容器に入れていた。それを、あっちゃんの口元で噴射するのだ。3、4回。
それが、あっちゃんのご飯。
「俺の食事…」と言って口を開ける。
口全体が潤うように…。
ただ…それだけ
息を引き取る20日まで…
たった…それだけ。
彼のメモ帳には、食べたい物リストが…書いてあった。達筆な字で初めは書いてあった。(彼は習字7段)すき焼き、煮付け、お好み焼き、刺身…
でも…段々と・・・
「みかん」という文字が震えていた。すき焼き…って何度も震えた字で書いてあった。
あっちゃん…お腹空いたやろ?
また涙が止まらなくなった。
息ができない…
あっちゃん…。
お腹空いたやろ?
待っててね…
