「できれば…縁を切りたいと思っているんです…」

えっ！

「嘘でしょ…！？」

水頭症という脳の中に水がたまってくる病気を治療するためのシャント手術を幼児期に施していたが、最近大量にたまった脳脊髄液が，脳を圧迫するようになったのか、脳の働きに悪影響を与えてしまっているらしく、夏休みにそのシャントの検査を行い、先日手術をした利用者さんがいる。彼女はまだ10歳の女の子だ。仮にAちゃんとしよう。

　そのシャント手術は、たまってしまう脳脊髄液を体内の他の場所へ逃がしてやる手術で、Aちゃんの頭に3箇所、お腹に1箇所穴を開け脳脊髄液の流れ道を新たに作る，いわゆるバイパスのような手術をした…。

その日の午前中…

手術日は1週間前に母親に知らせていた。しかし、手術時間が近くなってもなかなか現れない。

携帯電話をかけてみる。

「今向かっている。」と返ってくる。

手術10分前に母親到着。Aちゃんと会話をすることもなく、Aちゃんは微笑みながら手術室に入って行ったらしい。手術中に、これからの入院生活の付き添いのこと等について園長が直接母親と話し始めようとすると…

母親が…

「できれば…縁を切りたいと思っています。」と…下を向いたまま口にしたという。

縁を切る…！？

なんて！母親だ！

そう思った。腹が立った。その母を母親としてはもちろん…人として軽蔑した。

でも、少しして…

娘が可愛いから、愛おしいから…見たくないのかもしれない…。関われないのかも・・しれない…と思った。

私が、あっちゃんが緊急入院した日から日を重ねる毎に、回復する様子もなく、ベットに寝たきりになっている姿を見てると、毎日毎日病院に行くのが辛くてしんどくって…できれば「行きたくない！」って思った。「病人のあっちゃんを見たくない！」って思った。必ず回復し、元の元気な姿に戻れるのなら、看護する気持ちも、毎日病院へ行く喜びもあるけれど…

あっちゃんの体は「24時間の余命宣告」があったように…確実に少しずつ壊れていっていたから…。それでも、死ぬなんて思わなかった。

完治はない！とは感じていた。

あの時の気持ち…が、

先の見えない不安…

けして完治することがない病を背負う愛しい人を見続けることの切なさ…

可哀想で…

だから悔しくて、辛くて・・・

Aちゃんの母親も…そんな気持ちだったのだろうか…