消えた足跡
春になると、その川沿いは、桜の花でいっぱいになる。川の流れも一年を通じて穏やかだ。
その川の両側の道は、道幅3メートルはあるだろうか。およそ2キロメートルにわたって続いている。
それは、中学生の通学路であったり、地元の人のランニングコースだったり、離合することが少し困難ではあるが、県道へ出る道であり、病院へ行く裏道にもなっているので私は、好んで利用した。
夏になるとその川岸で遊んでいる親子連れもよく見る。
シロサギが優雅に水辺で羽ばたいている姿も目にする。
以前・・・
そこへは、三人で弁当を持ってやってきた。桜の花で満開な頃、川のせせらぎを聴きながら、春の日差しの中で、お弁当を食べる。ただそれだけのことだけれど、今思えば、なんと・・温かい時間だったのだろう。
あっちゃんが・・いた・・・。
そのお気に入りの道が、あの日、去年12月29日・・・地獄への、不幸への橋渡しの道となった。
何かがおかしい!
と、感じたのは、その道へ入る2、3キロメートル手前だった。
感じたことのない静かな恐怖!
押し迫ってくる不安!
あっちゃんが、血を吐いた。
かつて三人で、キラキラした陽気を楽しんでいたその場所が・・・その場所へ通じる道が・・・今、悍ましい世界へと導く道と化してしまったのである。
真っ暗だった。
寒さではない震えがくる。
「家に帰る。」と、言うあっちゃんの声を無視して、私は、その道を通って救急病院へと急いだ。
あれから、9ヶ月。
夜になると、その道の両側に設置してある橙色の反射光が光り出す。
危険防止のためだろう。
しかし、私にはその光が、あっちゃんが亡くなって暫くは、まるで天まで繋がる道のようで・・・
「あっちゃーん!」って叫びながら、泣きながら通った。
思い出す。
この道から始まった。
そして、この道で終わった。
あっちゃんは、
この道から一度も
家に帰ることはなかった。

