あっちゃんの足音
晩御飯が終わって、ソファに腰を下ろしたその時、リビングのドアが音を立てて揺れた…かと、思うと足音…
が、聞こえたような…
扉に目をやり、その真っ直ぐ先の台所のガスコンロの上の換気扇を見た時、胸が苦しくなった。
あっちゃんが足早に入って来た。(家の中で煙草を吸える場所は換気扇の下だと決まっていた。)消し損ねた煙草を咥え、急いで換気扇のスイッチを押し、せかせかと煙草の煙を吐き出している。
その姿が見えたのだ。
確かに見えたような…
ひっそりとした家の中
私だけの声が・・・・
時折響いている…
「あっちゃん!今からお風呂に入るね。」
「あっちゃん!寝るね。」
「あっちゃん!行ってくるね。」
「あっちゃん…ただいまー。」
・・・・って。
「おうっ」って、
返してくれないかなあー。
一回でいいから。
「おうっ…」って、
でも、聴こえたら…驚いて、腰を抜かしてしまうかも。
「ぎゃー!」って、叫んでしまうかも。
あっちゃんは、きっと私の声
聴いているはず。
腰を抜かさないように、小さな小さな声で…答えているはず。
「おうっ」って…
