意味のない秘密
あっちゃんは死なない…
そぅ…思っていた。
死ぬ訳がないと…
愛しい人の死など・・
あってはならない。
感じてはならない感情だ。
そして、私は・・
私が死ぬまで…あっちゃんと一緒にいられると信じていた。
根拠のない確信があった。
私が病に倒れた時、傍に居て、手を取り看病してくれるのは、あっちゃんのはずだった。毎日病室に来て見舞ってくれるのは、あっちゃんだったのに…
私が入院したのは、1度だけ。
切迫流産だった。3週間の絶対安静。女性だけの病棟の4人部屋に私はいた。窓側ではあったけれど狭い部屋だった。殺風景な部屋だった。あっちゃんは…仕事帰りに毎日やって来た。
推理小説の単行本持って。私の好きなガーナとかっぱえびせん持って。
休日は、朝から晩までいてくれた。弁当まで買って来た。そして、ベットの横に座って嬉しそうに食べていた。
私は、あっちゃんが居てくれるだけで良かった。私が弱気になった時、並んで座っていてくれるだけで良かった。
あっちゃんの身体が幾つもの管に繋がれている時、元気を示すバロメーターは、尿の量と排便の有無だった。
便意を感じたり、排便の処理をしたりする時、必ず…
「お前がしてくれ…」
義母でも看護師でもなく、私を呼んだ。
「お前じゃないといけん」
私にしか言えないことだった。
私にしか頼めないことだった。
私にしかできないことだった。
あっちゃんの死後…
私の知らない事実を沢山知ることになった。
「私だから言えたこと」が、
沢山あった。
でも…
「私だからこそ…言えない」
・・こともあった。
コンビニの実情
借金
肝硬変にまでなってしまった肝臓
病気の数々…
言わずに黙ったまま逝った。
私も話してないことが2つある。
一つは、ずっと「内緒」にしていること。
もう一つは、年老いたら「二人でしよう」と思っていたこと。
話せないままだった。
いつかは、話そうと思ったのに…
もう…話せる人はいない。
何でも・・話せる時に
話しておくものだ。
