離婚問題
「おぅ、おぅ。帰って来い。帰って来い。お前の面倒ぐらい…いつでもみてやる。いつでも帰って来い。」
本心かどうかは…分からない。
「お父さん!もう・・・ダメ。離婚するよ。」
2、3回…こんな電話をしたことがあった。理由は、あっちゃんのお酒のことか、義母の合点の行かない言動・・だろう。
母が亡くなってからのことだ。
父は、母が他界して7年間…独り暮らしをしていた。近くに姉夫婦が住んでいたが・・・料理から洗濯、掃除…独りで熟していた。
よく電話がかかってきた。
電話口で…父は泣いていた。
私が平然と話すと…怒った。
だから…一緒に泣いてやった。
父は…泣きながら…喜んでいた。
この時の父の気持ちが、今になって痛いほど分かる。
「哀しみ」は…癒えることはないけれど、多少の温度差はあれ「共有」することができる。
一緒に涙を流すだけでいい…
「離婚してもいい…?」
受話器越しに伝わる父の大きさを感じ、私は平常心を徐々に取り戻す。私を受け入れてくれる場所を確認したかっただけなのかもしれない。
そして父は、私の本心を知っていて…いつも…そぅ答えていたのかもしれない。
「いつでも…帰って来い…」
今日は、雨。
雨・・・だから…車を走らせて海にやって来た。
雨だから…外に出ようと思った。
海を眺めていると父を思い出してしまった。頼りになる人だった。
独りで…何でも熟し、検査入院前日まで元気だった。いつもと変わらなかった。
しかし、父は、カテーテル検査した直後、失明した。翌日には、認知症にも似た症状が出た。
私が誰かさえも…突然に分からなくなった。
医療ミスだ…間違いない!
訴えようとも当時考えた。
でも…でも…父は、「母の死」を忘れていた。
「苦しいほどの哀しみ」を
忘れることができた…
私も・・・忘れたい…。
