いってらっしゃい!
生きる理由は、娘だった。
娘の結婚式からわずか2ヶ月で逝ったあっちゃんは、自分の命の尽きる日を知っていた。
彼は、娘の花嫁姿を見ることを最期の目標とし、その日までを自分の命の期限とした。
挙式当日・・・あっちゃんは、完全燃焼した。
その日を境に、もう、心も体も空っぽだったに違いない。
完全に、燃え尽きてしまっていた。
夜中に目を覚ますと・・・居間で結婚式のビデオを見ている彼がいた。
その次の日も次の日も・・・・いつも見ていた。同じDVDを・・・。
寝室に入ってからも、布団に横たわり、完全に眠っているのに、彼の手には携帯があった。
覗いてみると、
流れているのは、両親へお礼の手紙を読んでいる娘の姿・・・だった。
お盆も明日で終わり。
最期の家での夜。
見えないあっちゃんは、きっと、この家に帰って来て、真っ先に、冷蔵庫からビールを出し、いつもの席に座っていたはず・・・
今日は封印してあった「結婚式のDVD」を流してみた。
どうしても見れなかった。
一人では、見る気にもなれなかったDVDだったけれど・・・・
流してみた。
元気なあっちゃんの姿・・・
喋っている声・・・
懐かしくて、悲しくて・・・・
泣きながら・・・少しだけ見た。
あっちゃんも見ているのだろう。
ソファのいつもの場所に座って・・
大好きな娘の花嫁姿を見ることが、
あっちゃんの
「生きる理由」だったのだから・・
あっちゃん!
いってらっしゃい!
いつでも 帰って来てね・・・・

