プロローグ〜命の炎
4年前の今日…
今…思えば、
あっちゃんに・・・不思議な事が起こっていた。
それはまるで…静かに始まろうとしている消え入る命の炎のプロローグのようなものだった。
あの日・・・
あっちゃんの体を綺麗にしてあげなければならない…という衝動に駆られた私は、一緒にお風呂に入り、久しぶりにあっちゃんの体を洗った。
お風呂の中は、薄い霧がかかっているようで…
今思えば…
普段…有り得ない光景だった。
まだまだ日の明るいうちに…
二人でお風呂に入り…
妻は一生懸命夫の体を洗っているのですから…。
いつもの浴槽であって…そうでもないような・・・
しかし…始まっていた。
確かに…
あっちゃんは…違っていた。
何一つ喋らず…されるがまま・・・
私が何を尋ねようとも返ってくるのは、「おぅ…」という言葉だけ。
あっちゃんの目は、そばにいる私を見ていない。
遠くを見ているように感じた。
あっちゃんの体はここにあっても心は…魂は「ここにない」ように感じた。
触れているこの体が溶けていくような…温かいはずの体さえ冷たく感じ、熱いお湯を何度もかけた。
あっちゃんの魂が脱け出そう…としていたのではないだろうか。
あの時から少しずつ少しずつ…抜け出していたのだろう。
その後、
ありがとうの言葉さえ忘れてしまったのか、それとも私には聞こえなかったのか、何も言わず身支度を整え仕事に行った。
宙を浮いているように歩いていた。
玄関を出て車に乗る時振り返り、この日初めて目が合った。
私は静かに手を振り見送った。
確か…「明日も一緒に入ろうね」と言って・・・。