クリスマスの悲劇 その2
「私・・・
釣られたみたい!」
そんな冗談を言う暇があったら…
後ろの家に住んでいる義父母を呼べば、本当は直ぐに解決する問題だったのだ。
スープの冷めない距離にいる訳だから…、釣り糸を切ってもらい、自分で運転して病院へ行くことができたのだ。
だけど私はそれをしなかった…。
義父母に気兼ねしているのも理由だし、こんな漫画のような光景を見せるのも恥ずかしかったし、夕食時でもあるし…。
ためらった…。
私は、義父母に頼み事をしたことがなかったから…。
いや!嘘か…
仕事していたので娘のことは、保育園の送迎に始まり、習い事、参観日までお願いした・・・なぁ…。
ちょっと言い直して…
娘の事以外では頼み事をしたことがない。
いや!待って…!
食事のメニューを頼んだことがよくあった。(お義母さんは料理上手だった)
まあ!
とにかく、義父母には、頼み事をするのが嫌だった。
だから、主人に電話した。
「釣り針が刺さって動けない。すぐに帰って来て!」って頼んだと思う。
主人は私の願いは100%聞いてくれる。(分かっているんだ!何があっても帰ってきてくれるって…)
そして、
救急病院に行った。時間が時間なだけに…。
しかし…
まさか!
まさか!
それから4日後…に・・・
今度は、主人を私が運んで「ここに」来ることになろうとは・・・
その時は…思いもしなかった。
私達は、薄暗い廊下で待たされた。
他にも4、5人の患者さんがいたと記憶している。
私と主人は二人並んで座った。
私の横には…主人がいた。
それだけで・・・
心強かった。
たかが…釣り針が刺さっているだけだけど・・・
主人がいてくれたんだ…なぁ…
あの時は…まだ生きていたんだなぁ…。
薄暗く広い待合室に置かれている長椅子に二人で座った。
冷たい空気の中…
ただ名前が呼ばれるのを待った。
そこは…クリスマス・・ではなかった。
つ づ く