重なる…蘇る…
重なる…、
蘇る…。
「ただいまー。」
玄関を入ると、消毒綿で手を拭く。
玄関に入ってすぐの部屋が、私が産後一ヶ月間娘と一緒に過ごした場所だ。
乳の匂いと真綿の中にでもいるような柔らかい空間がそこにはあった。
あっちゃんは、毎日毎日…そこへ駆け込んで来た。
眠っている姿を見ては、手や顔を撫で、泣いていれば抱き抱え、語りかけ…愛しくて愛しくて…
しばらくすると、そこへいつものビールを持ってやって来る。ベビーベッドの横に座って飲み始める。
お酒のあては、娘の寝顔…だった。
あっちゃんは小さい娘を見つめ…この子の将来を夢に描き、そして自分の未来と重ねて想像していたのだろう。
自分の未来と…重ねて・・・
随分、現実は違っていた。
誰がこんなにも早く別れが来ようと想像しただろうか。
胸に抱く…
「せっかく眠ったんだから、そっとしておいて、…」と、私が言う。
小さい小さい我が娘を優しく胸に抱き微笑むあっちゃん…
あの時と同じ笑顔を、今度は娘の子を抱いた時に見たかった。
孫の寝顔を酒のあてに…上手いお酒を飲ませてあげたかった。
