肝性脳症
「ハキハキ喋って!
どうしたん?
お酒…まさか…飲んでる?」
「飲んでないぞ…」
「いや…飲んどるね。その喋り方。」
こんな押し問答の繰り返しの毎日が続いていた。仕事帰りに必ず電話してあっちゃんの様子を探る。
あっちゃんの事が気になって気になって仕方ないのだ。電話に出ると、「仕事してるんだ!」と、安心したものの…あっちゃんの話し方が・・・
呂律が回っていないというか…
キレがないというか…
声が弱々しくて聴き取りにくいというか…
そんなあっちゃんに対して…
「また、隠れてお酒…飲んどるやろ」って!
何度怒ったことか。
「はっきり言って!」って・・
喋れなかったんだ。
唇に力が入らなかったのだ。
肝性脳症…そのもの…
その症状だった…
そうとも知らずに…
でも…
それだけではなかった。
「太った? 何?このお腹・・」
腹水の溜まったお腹を叩いてみたり…
「みっともないから痩せようね。」と言って、傷つけてしまったり…
それでも、あっちゃは、
しんどいなんて一言も言わないで
週末には遊びに連れて行ってくれた。
1日も休まずに仕事にも行った。
肝性脳症のため…不規則な震えが出ている手を隠し、マスクをして顔色を隠し、余り喋らず…腹水の為に膨らんだお腹は、セーターで隠し…自分の身に起きている緊急事態を自分だけの胸に隠して…
私との時間を作ってくれた。
