人生は家?に向かう旅
この家を離れることは、私にとってさほど大きな問題ではない。
「思い出が沢山あるのに…二人で建てた家だから…淋しくなるね。」と、事情を知っている数少ない知り合いはそう…言った。
確かに・・この家には、山ほど…語りきれないほど素敵な思い出がある。
だけど…「家」って…
空気が流れないと…
常に声がしないと…
たまに…何かが壊れる音でもするかの様な勢いがないと…
人が集まらないと…
愛している人が、
そこにいないと…
「家」とは言えないでしょ。
思い出に浸って懐かしむだけでは・・・。哀しんで泣いて…
人を寄せ付けず…ただそんな日ばかりを過ごしているようでは…。
「家」…ではないでしょ。
都合の良いことに、義父母の住んでいる家が、直ぐ後ろにある。あっちゃんと私が年老いたら、今…義父母の暮らしている家で生活しようと考えていた。
そこで、今住んでいるこの家は、
孫たちの「夏休み合宿所」。
旅行好きの「姉妹の休憩所」。
習字の得意なあっちゃんが先生となり孫たちへ教える「習字教室」だったり…お酒と釣りの大好きなあっちゃんが晩年…仲間と集まる「居酒屋」だったり…私の仕事場…書斎・・になるはずだった。
「人生は家に向かう旅だ」と、メルビル(小説家)は云った。
つらい暮らしを耐え抜けるのは、自分を愛してくれる家族がいるからだとも言っている。
私も、かつては、家に帰れば当たり前のように家族がいた。それが「全て」で、それだけで充分だった。
でも…今、家に帰っても…当たり前のようにいた人が…いなくなった。
「いない」ということが、当たり前になりつつある。
「人生は家に向かう旅」ではなくなってきているのも、悲しいかな事実だ。
それも…これも・・・
あっちゃんが…いないからだ。
